前回「徒然草」をご紹介しましたが、今回は「伊勢物語」を取り上げたいと思います。
こちらも徒然草同様、高校の教科書にも載っている有名なお話ですよね。
模試などの試験でもよく出てきますので、今一度伊勢物語に関する知識を確認しておきましょう!
伊勢物語とは
伊勢物語は長い年月をかけて複数の作者が描いた全125段から成る歌物語であり、古くは「在五が物語」、「在五中将物語」「在五中将の日記」とも呼ばれていました。
主人公のモデルとされる在原業平は、六歌仙・三十六歌仙の一人である優れた歌人で、その歌は発想の奇抜さから、「心あまりて言葉足らず」と批評されていました。
○どんな物語?
伊勢物語はすぐに読めるような短編ばかりですが、そのテーマは「恋」「友情」「主従の絆」など多岐に渡ります。主人公のモデル・在原業平の実際のエピソードから取られたと思われる話も多くあり、藤原高子との恋や、仕えた惟喬親王との絆も、「芥川」「小野雪」などの段に反映されているのです。
また、歌物語と呼ばれるように、各段には印象的な和歌がおさめられています。
有名なものも多いので、百人一首で見たことがある、という人も多いのではないでしょうか。
「ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは」
「今日来ずは明日は雪とぞ降りなまし消えずはありとも花と見ましや」
「月やあらぬ春や昔の春ならぬ わが身ひとつはもとの身にして」
これらの和歌は、時代を超えて多くの人々に愛されています。
後世に与えた影響
伊勢物語は、「いろごのみ」の理想形を書いたものとして、「源氏物語」など後代の物語文学や、和歌に大きな影響を与えています。
その影響は計り知れず、「後撰和歌集」や「拾遺和歌集」にも伊勢物語から採録されたと考えられる和歌が見られています。
歌人・藤原清輔は歌学書「奥義抄」で伊勢物語について触れており、藤原清輔にとって伊勢物語は、平安初期の和歌を読む際に必要な歌語の知識の供給源と見なしていたようでした。
主人公・在原業平の奇抜さ
在原業平は平安時代のプレイボーイとして知られていますが「心あまりて言葉足らず」と評されるように、和歌の独創性が高く評価されています。
たとえば、第82段に収録されているこんな和歌があります。
「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」
「世の中に桜がなかったなら、春を過ごす人の心はどんなにのどかであることでしょう」
どの時代も桜は美しさを愛でることが常識でした。
しかし、在原業平は上の句に「たえて桜のなかりせば(=世の中に桜がなかったならば)」という突拍子もない言葉を置くことで、桜の魅力をよりいっそう際立てているのです。
ここに、他者には真似できない在原業平のオリジナリティを感じますね。
今回は伊勢物語についてざっくりとご紹介しました。
伊勢物語は「芥川」「小野の雪」など、教科書にも載っている話がたくさんあります。
後世の文学に与えた影響も大きいので、興味がある方はぜひ一度通して読んでみてくださいね。
当記事の和歌は新版伊勢物語付現代語訳(角川ソフィア文庫)より引用